「モルタル外壁の見積もり、下地処理が『一式 3万円』って書いてあるけど大丈夫?」
結論から言えば、モルタル外壁で「下地処理一式」は最も危険な見積もりパターンだ。
なぜなら、モルタル外壁は必ずひび割れ(クラック)が発生する素材であり、そのクラックの種類と深さによって補修方法が全く異なるからだ。
この記事では、モルタル外壁の塗装見積もりで確認すべき「下地処理」の詳細と、2020年民法改正で強化された「契約不適合責任」を踏まえた契約書のチェックポイントを解説する。
なぜモルタル外壁の下地処理は重要なのか
塗装の寿命の7割は下地処理で決まる
外壁塗装の耐久性は「塗料のグレード」で語られがちだが、実際には下地処理の良し悪しで寿命の7割以上が決まる。
どれほど高価なフッ素塗料を塗っても、下地(モルタル)の欠陥を放置したまま上塗りすれば、それは「砂上の楼閣」に過ぎない。
下地処理は「隠蔽される」
最大の問題は、下地処理が完了して上塗りが施されると、その処理内容が完全に見えなくなること。
この「不可視性」が手抜き(工程省略)の温床となり、後に剥離や雨漏りを引き起こす主要因になっている。
モルタル外壁の劣化パターンと補修方法
クラック(ひび割れ)の種類と対処法
モルタルは乾燥収縮する性質を持つため、必ずひび割れが発生する。重要なのは、クラックの種類によって補修方法が全く異なること。
【ヘアクラック】幅0.3mm未満 特徴:塗膜の劣化、表面の乾燥収縮。構造的影響は軽微 補修:フィラー刷り込み、弾性塗料 【乾燥収縮クラック】幅0.3mm以上 特徴:モルタル全体の収縮。シーリング充填が必要 補修:樹脂注入、シール工法 【構造クラック】幅0.3mm以上+貫通 特徴:地震や不同沈下など外力に起因。雨水侵入の直回路 補修:Uカットシール工法、低圧樹脂注入 【開口部クラック】窓サッシの隅角部から斜めに発生 特徴:漏水リスク最高 補修:緩衝目地設置、シーリング充填
その他の劣化現象
【爆裂(露筋)】 原因:内部のラス網や鉄筋が錆びて膨張 確認:「ハツリ」「防錆処理」「断面修復」の記載 【エフロレッセンス(白華)】 原因:クラックから侵入した水が成分を溶出 確認:防水機能破綻のサイン。原因となるクラック補修が必要 【チョーキング】 原因:塗膜の劣化で顔料が粉状に 確認:高圧洗浄で除去後、適切な下塗り
見積書チェックポイント【下地処理編】
危険信号:「下地処理 一式」
モルタル外壁の見積もりで最も警戒すべきは、下地処理が「一式」で片付けられているケース。
下地調整・補修工事 一式 ... 30,000円
高圧洗浄(15MPa)... 150㎡ × @200円 = 30,000円 クラック補修(Uカット・シール充填)... 15m × @1,500円 = 22,500円 クラック補修(樹脂注入)... 5m × @2,000円 = 10,000円 爆裂補修(ハツリ・防錆・埋戻し)... 3箇所 × @8,000円 = 24,000円
チェック項目1:高圧洗浄
【水圧】適正:10〜15MPa / 危険:記載なし 【洗浄方法】適正:トルネードノズル、バイオ洗浄 / 危険:「水洗い一式」 【単価】適正:150〜300円/㎡ / 危険:極端に安い ※バイオ洗浄とは:カビや藻が著しい場合、次亜塩素酸ナトリウム等の薬剤で真菌類の根を化学的に分解する方法。通常洗浄より手間がかかるため単価が高い。
チェック項目2:クラック補修
ヘアクラック(0.3mm未満)
フィラー刷り込みで対応。下塗り時に行うことが多く、塗装工程に含まれる。
乾燥収縮・構造クラック(0.3mm以上)
【シール工法】単価:500〜1,000円/m 適用:0.3mm未満のクラック 【樹脂注入工法】単価:1,500〜3,000円/m 適用:0.3〜1.0mmのクラック 【Uカットシール工法】単価:1,000〜2,000円/m 適用:0.3mm以上、挙動のあるクラック
チェック項目3:Uカットシール工法の詳細
Uカット工法は最も信頼性の高いクラック補修法だが、手間がかかるため省略されやすい。
1. カット:ダイヤモンドカッターでU字型に溝を掘る(幅10mm、深さ10〜15mm) 2. プライマー塗布:接着剤を塗布 3. シーリング充填:弾性シーリング材を充填 4. ポリマーセメント充填:表面を平滑に 5. パターン復元(肌合わせ):周囲の模様(スタッコ、リシン等)を復元
見積書で確認すべきこと:
・「Uカット」の記載があるか
・パターン復元(肌合わせ)が含まれているか
・メートル数が記載されているか
補修跡が「ミミズ腫れ」のように目立ち、美観を著しく損なう。
チェック項目4:爆裂補修
爆裂箇所は単に穴を埋めるだけでなく、露出した鉄部の防錆処理が必須。
1. ハツリ:浮いたモルタルを除去 → 「ハツリ」の記載 2. ケレン:錆をワイヤーブラシ等で除去 → 「錆落とし」「ケレン」の記載 3. 防錆処理:錆止め塗料を塗布 → 「エポキシ系錆止め」等の記載 4. 埋め戻し:断面修復材で成形 → 「軽量エポキシモルタル」等の記載
「爆裂補修 一式」で防錆処理の記載がない → 再発リスク大
見積書チェックポイント【塗装編】
モルタル外壁に適した塗料システム
【下塗り】微弾性フィラー → クラック追従、下地調整 【中塗り・上塗り】透湿性弾性塗料 → 雨水遮断+水蒸気透過
弾性塗料の「透湿性」を確認
モルタルは水蒸気を放出する「呼吸する素材」。透湿性のない弾性塗料を塗ると、行き場を失った水蒸気が塗膜を押し上げ「膨れ」を起こす。
見積書で確認すべきこと:
・塗料名が具体的に記載されているか(メーカー名・商品名)
・カタログで「透湿性」が確認できるか
塗装工程の記載
【工程数】適正:下塗り・中塗り・上塗りの3回 / 危険:「仕上げ塗装」のみ 【塗布量】適正:缶数の記載あり / 危険:缶数の記載なし 【色変え】適正:中塗りと上塗りで色を変える / 危険:同色
中塗りと上塗りを同色にすると、塗り残しがあっても気づかない。中塗りを少し薄い色にすることで、上塗りの透けや塗り残しが一目瞭然になる。
契約書チェックポイント【法的リスク管理編】
2020年民法改正:「契約不適合責任」とは
2020年4月の民法改正で、従来の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わった。
【旧法(瑕疵担保責任)】 「一般的な水準」を満たさない欠陥 【新法(契約不適合責任)】 「契約で約束したこと」と違う
重要な変化: 契約書や見積書に「どのような下地処理を行うか」が明記されていなければ、たとえ簡易的な処理しか行われなくても「契約違反」と主張しにくくなる。
つまり:詳細な仕様を契約書に記載させることが、自己防衛の最強手段。
契約不適合があった場合の4つの権利
【追完請求権】修補を求める 例:「塗装が剥がれたので直してほしい」 【代金減額請求権】修補に応じない場合、減額を求める(新設された権利) 例:「その分だけ値引きしろ」 【契約解除権】不適合が重大な場合、契約解除 例:「雨漏りが直らず住めない」 【損害賠償請求権】損害の賠償を求める 例:「補修中のホテル代を払え」
契約書の必須チェック項目
チェック1:工事内容の特定
見積書番号や仕様書が契約書に紐付けられているか確認。
工事内容:見積書No.○○(令和○年○月○日付)に基づく外壁塗装工事一式
工事内容:外壁塗装工事一式
チェック2:支払条件
【完工後一括】最も安全 【着工時30%、完工時70%】一般的 【着工時50%以上】資金繰り悪化の可能性。倒産・持ち逃げリスク 【全額前払い】絶対に避ける
チェック3:保証期間と起算日
【保証期間】一般的に5〜10年 【起算日】「引渡し日」か「工事完了日」か 【対象範囲】塗膜剥離のみか、変色も含むか
チェック4:免責事項の範囲
よくある免責条項:
・地震・台風などの天災
・既存塗膜の剥離に起因するもの
・構造上の欠陥に起因するもの
・下地の挙動に起因するひび割れ
「下地の挙動」をすべて免責にされると、モルタル外壁の塗装保証は実質無効に近くなる。交渉が必要。
チェック5:クーリング・オフの記載
訪問販売で契約した場合、契約書面を受け取った日から8日以内であれば、理由を問わず契約解除できる。
確認ポイント:
・赤枠で囲まれた赤字でクーリング・オフの説明があるか
・これがない書面は法律上不備があり、8日を過ぎても解除可能な場合がある
「材料を発注したから解約できない」「違約金がかかる」は嘘。妨害があった場合、8日間の期間は進行せず、いつでもクーリング・オフが可能。
施工中のチェックポイント
工程写真の提出を契約条件にする
契約時に「以下の工程写真を必ず撮影し、報告すること」を条件にする。
【高圧洗浄後】乾燥状況 【クラック補修】Uカットの溝、プライマー塗布、シーリング充填、肌合わせ 【爆裂補修】防錆処理の状況 【下塗り完了】全景 【中塗り完了】全景(色変えの確認) 【上塗り完了】全景 【使用塗料】空き缶の写真(使用量の証明)
リフォームかし保険の活用
業者が「リフォームかし保険」に加入して工事を行えば:
・第三者(建築士)による現場検査が義務付けられる
・施工品質が担保されやすい
・業者が倒産しても保険金で補修ができる
確認方法: 「JIO(日本住宅保証検査機構)等のかし保険に加入していますか?」と質問
見積書・契約書チェックシート(まとめ)
✓見積書チェックリスト
- 高圧洗浄:水圧(MPa)の記載があるか
- 高圧洗浄:バイオ洗浄の要否が検討されているか
- クラック補修:「一式」ではなくメートル数・箇所数の記載か
- クラック補修:Uカット工法の記載があるか
- クラック補修:パターン復元(肌合わせ)が含まれているか
- 爆裂補修:防錆処理の記載があるか
- 塗料:メーカー名・商品名の記載があるか
- 塗料:透湿性弾性塗料が選定されているか
- 塗装工程:下塗り・中塗り・上塗りの3回が明記されているか
- 塗装工程:缶数の記載があるか
✓契約書チェックリスト
- 工事内容:見積書番号が紐付けられているか
- 工期:着工日・完工日が明記されているか
- 支払条件:前払いが50%を超えていないか
- 保証:保証期間と起算日が明記されているか
- 免責:「下地の挙動」が過度に免責されていないか
- クーリング・オフ:赤枠・赤字で説明があるか
まとめ
モルタル外壁の塗装見積もりで最も重要なのは下地処理の詳細。
・「下地処理 一式」は危険信号 ・クラック補修はメートル数と工法を確認 ・Uカット工法には「パターン復元」が必須 ・爆裂補修には「防錆処理」が必須 ・塗料は「透湿性弾性塗料」を選定
・詳細な仕様を契約書に紐付ける(契約不適合責任対策) ・支払いは「完工後一括」または「着工時30%以下」 ・免責事項の範囲を確認・交渉 ・工程写真の提出を条件にする
高価なフッ素塗料を選ぶよりも、シリコン塗料に落としてでも下地処理にお金をかける方が、建物の寿命延長には寄与する。
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