はじめに:塗装の耐久性は「塗る前」に決まる
私は愛知県で50年続く塗装店の2代目として、500件以上の現場を見てきました。
その経験から断言できることがあります。
塗装の耐久性を決定づける要因の70%以上は「下地処理」の品質です。
どれほど高価なフッ素塗料や無機塗料を使用しても、その下にある下地処理が不適切であれば、塗膜は早期に剥離し、防水機能は破綻します。
私が提唱する「塗装方程式」では、品質を次のように定義しています。
品質 = モチベーション × 技術 × 時間
この公式において、「技術」の大部分は下地処理が占め、「時間」は人工(にんく)として見積書に反映されます。
本記事では、サイディング外壁塗装における下地処理とシーリング工事について、見積書と契約書で確認すべき21のポイントを徹底解説します。
第1章:サイディング外壁の特性を理解する
なぜサイディングは「動く」のか
日本の住宅の約70%以上で採用されている窯業系サイディングは、セメントと繊維質を主原料としています。
この素材には重要な特性があります。
吸水膨張と乾燥収縮のサイクル
サイディングボードは、雨天時に水分を吸収して膨張し、晴天時に乾燥して収縮します。この「動き」は、ボードの固定部(釘打ち部)や継ぎ目(目地)に強力な応力を発生させます。
【外部要因とサイディングへの影響】
- 気温変化:熱膨張・収縮 → 目地は緩衝材として伸縮する
- 地震・風圧:層間変形(建物の揺れ)→ 目地は建物全体の歪みを吸収
- 湿度変化:乾湿繰り返しによる寸法変化 → 目地は膨張収縮に追従し防水性を維持
シーリングは「建物の関節」
目地(コーキング部分)は単なる隙間埋めではありません。建物の「エキスパンションジョイント(伸縮目地)」としての構造的な役割を果たしています。
シーリング工事を軽視することは、建物の寿命を縮めることに直結します。
第2章:シーリング工事【見積書チェックポイント①〜⑩】
サイディング塗装において最も手抜きが発生しやすく、かつ建物の寿命を左右するのがシーリング工事です。
①「打ち替え」か「増し打ち」かを確認
【打ち替えと増し打ちの比較】
- 打ち替え:既存シーリングを完全撤去し、新規材を充填 → サイディング目地は【必須】10〜15年以上持続
- 増し打ち:既存の上に薄く新規材を被せる → 入隅やサッシ周りなど撤去できない場所以外は【原則禁止】2〜5年程度
私の著書『外壁塗装の不都合な真実』でも触れていますが、以前施工した現場では、ハウスメーカーのメンテナンスにも関わらず、本来「打ち替え」が必要な目地に「増し打ち」を行っていたケースがありました。
「増し打ち」では古いゴムの上に新しいゴムを薄く塗ることになり、厚みが確保できないためサイディングの動きに耐えられずすぐに破断します。
② 撤去費と廃材処分費が計上されているか
見積書に「既設シーリング撤去」「廃材処分費」が含まれているか確認してください。
単価がmあたり700円以下の場合、増し打ちを前提としている可能性が極めて高いです。
③「2面接着」か「3面接着」かを確認
これは職人でも知識の浅い人が間違えるポイントです。施主が指摘できれば品質管理レベルが格段に上がります。
【接着方法の違い】
- 3面接着(NG):左右のボード+底面に接着 → ボード収縮時に伸びられず断裂・剥離
- 2面接着(正解):左右のボードのみに接着、底面から絶縁 → ゴムバンドのように自由に伸縮
④ ボンドブレーカーの使用を確認
2面接着を実現するには、「ボンドブレーカー」と呼ばれる絶縁テープを目地底に設置する必要があります。
現場確認のキラー・クエスチョン:
「サイディングの目地は2面接着になりますか?既存撤去後にボンドブレーカーが剥がれてしまった場合、貼り直しは見積もりに含まれていますか?」
⑤ シーリング材の種類を確認
塗装下地としては、ノンブリードタイプの変成シリコンまたはウレタンが推奨されます。
⑥「ノンブリード」タイプか確認
安価なシーリング材に含まれる可塑剤が、時間の経過とともに塗膜表面に移行し、黒ずんだベタつき汚れを引き起こす「ブリード現象」が発生します。
必ず「ノンブリード(NB)」タイプを指定してください。
⑦ 高耐久シーリング材の検討
「オートンイクシード」などの高耐久シーリング材は、耐用年数が20〜30年とされ、高機能塗料との寿命バランスが良いです。
通常品よりm単価で200〜500円程度上がりますが、足場代を考慮するとライフサイクルコストでは有利です。
⑧ プライマー塗布の明記
シーリング充填前のプライマー(接着剤)塗布は必須工程です。見積書に明記されているか確認してください。
⑨ シーリングの数量(m数)が明記されているか
「シーリング工事 一式」ではなく、具体的なm数と単価が記載されていることが重要です。
⑩ 硬化養生期間の確保
シーリング充填後、塗装に入るまでに適切な硬化時間が必要です。工程表で確認してください。
第3章:高圧洗浄【見積書チェックポイント⑪〜⑭】
⑪ 適正水圧(10〜15MPa)の確認
家庭用の高圧洗浄機(5〜8MPa程度)では、こびりついた汚れや脆弱な旧塗膜を除去するには不十分です。
一方で、20MPaを超えるような過度な高圧は、サイディングの基材を傷つけるリスクがあります。
⑫ バイオ洗浄の必要性確認
北面の壁などに緑色の藻や黒カビが繁殖している場合、通常の水洗いだけでは菌の「根」が残り、塗装後に塗膜の下で再繁殖して早期剥離の原因となります。
私の経験では、藻が付着したサイディングは、そのまま塗装してはいけません。藻を中性洗剤などで除去してから塗装することが必要です。
⑬ 乾燥時間(24〜48時間)の確保
これは最も見落とされやすいポイントです。
洗浄によってサイディングは大量の水を吸い込みます。
【乾燥時間とリスク】
- 適正(24〜48時間):塗膜が正常に密着
- 不足(翌日すぐ塗装):内部の水分が気化し「膨れ(ブリスター)」発生
洗浄翌日にすぐ塗装(下塗り)を開始する工程表は極めて危険です。
⑭ 洗浄の単価と面積が明記されているか
「高圧洗浄 一式」ではなく、㎡数と単価(150〜250円/㎡が目安)が明記されていることを確認してください。
第4章:下地補修【見積書チェックポイント⑮〜⑱】
⑮ クラック補修の工法確認
【クラックの種類と適切な補修方法】
- ヘアクラック(0.3mm未満):微弾性フィラーの厚塗り
- 構造クラック(0.3mm以上):Vカット工法で溝を広げ、シーリング材を充填
単に上からコーキングを擦り込むだけの「すり込み」補修では、すぐに再発します。
⑯ 釘浮き・ビス頭の処理確認
サイディングを固定している釘は、熱膨張収縮の繰り返しや建物の揺れで浮いてくることがあります。
釘頭は金属であるため、塗装前に「防錆処理(サビ止め塗装)」が必要です。
⑰ 反り・浮きの診断結果確認
吸水と乾燥を繰り返したボードは、変形(反り)を起こします。
一度大きく反ってしまったボードは、塗装やビスの増し打ちだけでは矯正できない場合があり、この診断を誤ると、塗装直後にボードが割れる事故につながります。
⑱ 凍害・欠損の補修確認
寒冷地で多い「凍害」や物理的衝撃による欠けは、エポキシ樹脂パテなどで成形し、周囲のテクスチャに合わせて修復する必要があります。
第5章:見積書の「一式」を排除する【チェックポイント⑲〜㉑】
⑲「一式」表記の危険性
「下地処理工事 一式 150,000円」といった見積もりは受け入れてはいけません。何が含まれ、何が含まれていないかが不明確だからです。
あるべき詳細見積もりの例:
- 高圧洗浄(12〜15MPa):180㎡ × @200 = 36,000円
- 既設シーリング撤去:220m × @300 = 66,000円
- シーリング打設(オートンイクシード):220m × @900 = 198,000円
- クラックVカット補修:15m × @1,500 = 22,500円
- 釘頭 防錆処理:1式 = 5,000円
⑳ 材料名(商品名)の具体的記載
「シーリング材:高級変成シリコン」ではなく、「メーカー名:オート化学工業、商品名:オートンイクシード」まで指定されているか確認します。
使用材料が特定されていなければ、業者は一番安い材料を使うインセンティブが働きます。
㉑「人工(にんく)」で工期の妥当性を確認
見積書の人工数から、適正な工期が確保されているかを逆算できます。
30坪の住宅であれば、足場設置から解体まで最低10〜14日は必要です。これを1週間で終わらせる工程表は、どこかの工程が省略されている可能性があります。
まとめ:塗装は「塗るまでの下地処理」が命
私が50年の経験から学んだ最も重要な教訓は、「塗装は塗るまでの下地処理が命」ということです。
塗装方程式で考える
品質 = モチベーション × 技術 × 時間
【下地処理との関係】
- 技術:下地処理の品質が塗装の70%を決める
- 時間:洗浄後の乾燥時間、シーリング硬化時間が必須
- モチベーション:適正な人工が確保されて初めて丁寧な仕事ができる
契約前に確認すべき5つのアクション
- 詳細見積もりの要求:「一式」を排除し、m数と単価、使用材料名が明記された見積もり以外は受け取らない
- シーリング仕様の確認:「全撤去(打ち替え)」「2面接着」「ボンドブレーカー確認」を口頭および書面で約束させる
- 工程の論理的確認:洗浄後の乾燥時間、シーリング後の硬化養生期間が適切に確保されたスケジュールか確認
- 証拠の保全契約:隠蔽部分(撤去後の目地、塗装前の下地など)の写真提出を契約条件に盛り込む
- 現場への関与:塗装開始前の「下地検査」を施主立ち合いで行う意思を伝える
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