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なぜ安い業者は手抜きになるのか?人工(ニンク)から読み解く外壁塗装の真実

外壁塗装の見積もりで業者間の価格差が30万円以上あるのはなぜか?その答えは「人工(ニンク)」にある。材料費も足場代も削れない中で、安さを実現する唯一の方法は「手間を省く」こと。多重下請け構造の実態と、見積書を人工で読み解く方法を解説。

外壁塗装の見積もりを複数社から取ると、同じ建物なのに「80万円」と「150万円」という驚くべき価格差が生じる。

安い方を選んで節約?それとも高い方が確実?多くの消費者がこの二択で悩む。

しかし、建設工事の原価構造を理解すれば、その答えは明白だ。

塗装工事のコストは「材料費」「足場代」「人工(にんく)」の3要素で構成される。このうち材料費と足場代は市場価格で決まり、業者が自由に操作できる余地が小さい。唯一の「調整弁」は人工——つまり、現場で働く職人の労働日数なのだ。

本稿では、この「人工」という視点から、なぜ安い業者は構造的に手抜きにならざるを得ないのか、その経済的メカニズムを解明する。

「人工(にんく)」とは何か

建設業界の基本単位

人工(にんく)とは、1人の職人が1日(8時間)働く労働量を「1」とする単位。建設業界では古くから使われる概念で、工事の規模を測る物差しとなる。

例えば:

・2人の職人が5日間働く工事 → 延べ10人工

・3人の職人が7日間働く工事 → 延べ21人工

一般的な戸建て住宅(延床30坪程度)の外壁塗装には、適正な施工で延べ20〜30人工が必要とされる。

人工単価の相場

職人1人を1日雇うコストには、日当だけでなく社会保険料、交通費、道具の消耗費などが含まれる。

塗装職人の適正な人工単価:18,000〜25,000円/人工

これを下回ると、職人は生活を維持できない。上回ると、消費者にとって割高になる。

人工数と品質の相関

ここが核心だ。

塗装の品質は、投入された人工の総量に直接比例する。なぜなら、塗装は「時間をかけた丁寧な作業」の積み重ねでしか品質を担保できないからだ。

高圧洗浄で汚れを落とすのに必要な時間。ひび割れを丁寧に補修するのに必要な時間。塗料が乾燥するのを待つ時間。一つひとつの工程に「物理的に必要な最低限の時間」が存在する。

人工を削る=この「必要な時間」を削ること。そして時間を削れば、塗装の品質は必ず低下する。これは努力や工夫では覆せない物理法則だ。

塗装工事の原価構造

コストの内訳

戸建て住宅(30坪)の外壁塗装工事における原価構造は、おおよそ以下の比率になる。

■ 材料費(塗料・副資材):20〜25%

■ 足場代:15〜20%

■ 人工代(労務費):40〜50%

■ 経費・利益:15〜20%

最大の割合を占めるのは「人工代」であることがわかる。そしてこれこそが、価格競争の主戦場となる。

なぜ材料費と足場代は削れないのか

材料費の固定性:

外壁120㎡を規定の膜厚で塗装するには、物理的に「これだけの塗料が必要」という量が決まっている。日本ペイントやエスケー化研などの大手メーカー塗料は、価格がオープン化されており、業者間の仕入れ価格差は最大でも20%程度。

これを20%削減するには、塗料を薄めるか、塗る回数を減らすしか方法がない。それは「コスト削減」ではなく「契約違反」だ。

足場代の固定性:

足場は労働安全衛生法で設置が義務付けられており、多くの業者は専門の「足場屋」に外注している。市場相場で価格が決まるため、「足場代無料」は経済原理に反する。

唯一の調整弁は「人工」

材料も足場も削れない中で、競合より30万円、50万円安い見積もりを出そうとすれば、削れるのは「利益」か「人工」のどちらかしかない。

企業として存続するには最低限の利益が必要。結果として、最も大きな割合を占め、かつ「完工後には目に見えなくなる」要素である「人工」が削減のターゲットになる。

「人工を削る」とは、本来10日かかる工事を5日で終わらせること。これこそが「手抜き」の経済的実体だ。

多重下請け構造:誰が人工代を奪うのか

建設業界のピラミッド構造

消費者が支払った工事代金が、実際に現場で働く職人の手に渡るまでに、どのようなプロセスを経て「蒸発」していくのか。

第1階層:ハウスメーカー・大手リフォーム会社(元請け)

役割は集客、ブランド提供、契約。マージン率は30〜50%。テレビCMや展示場、多数の営業マンの経費として消える。実際の工事はすべて下請けに丸投げ。

第2階層:下請け塗装店・工務店

役割は現場管理、職人の手配。マージン率は15〜25%。さらに孫請けに発注することも。

第3階層:孫請け職人(一人親方など)

役割は実際の施工。残存予算は元値の30〜40%程度。

100万円工事のシミュレーション

消費者が大手ハウスメーカーに「100万円」で外壁塗装を依頼した場合:

・消費者支払額:1,000,000円

・ハウスメーカー取り分(40%):▲400,000円

・下請けへの発注額:600,000円

・下請け取り分(15%):▲90,000円

・孫請けへの発注額:510,000円

・材料費(固定):▲200,000円

・足場代(固定):▲150,000円

・残りの労務費予算:160,000円

構造的な「手抜き」の必然

この「160,000円」が、工事に投入できる全人工代の上限。

本来、この規模の工事を適切に行うには延べ20人工が必要。職人の適正日当が20,000円なら、本来の必要労務費は400,000円。

しかし、予算は160,000円しかない。1人工あたり8,000円にしかならず、経費を引けば赤字になる。

この状況で職人が生活費を稼ぐ唯一の解決策は、「20人工かかる仕事を8人工で終わらせる」こと。

つまり、10日かかる工程を4日で終わらせる。そうすれば日当40,000円となり、利益が出る。

これは職人の倫理観の問題ではなく、構造的に強いられた「生存のための手抜き」なのだ。

手抜きの具体的手法

手法1:工程の省略

塗装の基本は「下塗り・中塗り・上塗り」の3回塗り。

中塗りの省略:下塗り後にいきなり上塗り(2回塗り)

一発仕上げ(イチコロ):下塗り材と上塗り材を混ぜて1回で終わらせる

業界では「イチコロ」と呼ばれ、最悪の手抜きとされるが、工期を半分以下に短縮できるため、激安業者では常態化している。

手法2:乾燥時間の無視

塗料が性能を発揮するには、各工程の間にメーカー規定の乾燥時間が必要。通常3〜4時間、冬場は翌日まで。

追っかけ塗り:下塗りが乾いていない状態で中塗りを重ねる

同日3回塗り:本来3日かかる工程を、朝・昼・夕方と1日で終わらせる

待ち時間を削除すれば、1日で3日分の面積を進められる。人工コストは3分の1に圧縮される。

手法3:過度な希釈(シャブシャブ)

塗料は規定の希釈率(0〜10%)で使用する。

規定以上に薄めて(シャブシャブにして)塗ると、粘度が下がりスルスルと塗れるため作業スピードが上がる。1缶で塗れる面積が増え、材料費も削減できる。

しかし、形成される塗膜は規定より薄く、耐久性は著しく低下する。

手法4:下地処理・養生の簡略化

塗装の寿命を左右するのは、塗る作業よりその前の工程。

高圧洗浄を短時間で済ませる(汚れが残ったまま塗る)、ひび割れを埋めずに塗料で覆い隠す、養生テープを雑に貼る——これらは最も人工がかかる工程であり、ここを雑にすることで全体の工期を2〜3割短縮できる。

手抜きが招く物理的・化学的な結果

結果1:膨れ(ブリスター)

乾燥時間を短縮し、生乾き状態で上塗りした場合に発生。

下塗りの溶剤が完全に揮発していない状態で上塗りすると、逃げ場がなくなった溶剤が塗膜内部に閉じ込められる。太陽光で壁面が温まると、内部の溶剤が気化して膨張し、蒸気圧が塗膜を内側から押し上げて「膨れ」を形成する。

これは「人工を惜しんで乾燥時間を待たなかった」ことに対する物理的な罰則だ。

結果2:剥離(デラミネーション)

ケレンや高圧洗浄の人工を惜しんだ場合に発生。

塗料が壁面ではなく、汚れや粉の上に塗られると、接着剤と被着体の間に異物が介在し、結合が阻害される。塗膜自体の凝集力が低下し、数年でボロボロと剥がれ落ちる。最悪の場合、塗装後わずか半年〜1年でシート状に剥がれる。

結果3:白化(ブラッシング)

工期に追われ、雨の日や高湿度の日でも作業を強行した場合に発生。

湿度85%以上で塗装すると、溶剤の揮発に伴う気化熱で塗膜表面温度が低下し、空気中の水分が結露して塗膜に取り込まれる。結果、塗膜が白く濁り、光沢が失われる。

見積書のトリックと罠

トリック1:「一式見積もり」の不透明性

悪徳業者の典型は、「外壁塗装工事 一式 60万円」という表記。

具体的に何人工かけるのか、何缶の塗料を使うのかが不明で、後で「あそこは契約に含まれていない」と言い逃れできる。工程を間引くことが容易。

対策:平米数(㎡)、塗料の缶数、想定人工数が明記されていない見積もりは除外すべき。

トリック2:「足場代無料」の虚構

「今なら足場代無料」「モデル工事として半額」も常套句。

足場には確実に15万〜20万円のコストがかかる。これを無料にするには、別の場所(材料のグレードダウンや人工削減)で回収するしかない。あるいは最初から見積もり総額に上乗せしてから割り引いている。

トリック3:追加請求の脅威

極端に安い見積もりで契約し、足場を組んで逃げられない状態になってから「下地が予想以上に傷んでいる」と追加料金を請求する手口。最終的には相場以上の金額になる上、トラブルのリスクを抱え込む。

適正工事 vs 手抜き工事:シミュレーション比較

同じ「120㎡の2階建て住宅」を塗装する場合の比較。

シナリオA:適正な専門業者(見積額120万円)

投入人工数:延べ30人工(3人×10日間)

Day1-2:丁寧にバイオ洗浄、完全乾燥 → Day3-5:ひび割れ補修、窓枠を隙間なく養生 → Day6:下塗り → Day7:中塗り → Day8:上塗り → Day9-10:点検、塗り残しチェック、清掃

結果:塗膜厚が確保され、密着も完璧。期待耐用年数15年を全うする。

シナリオB:格安手抜き業者(見積額65万円)

投入人工数:延べ10人工(2人×5日間)

Day1:足場を組んだ直後に洗浄、乾燥待たず → Day2:養生・下塗り(湿った壁に強行)→ Day3:中塗り+上塗り(追っかけ塗り)→ Day4:検査なしで足場解体

結果:完工時の見た目はAとほぼ同じ。しかし内部では「溶剤封じ込め」と「密着不良」が進行中。1〜2年後に南面から膨れが発生し、3年後には広範囲で剥離。

再塗装には旧塗膜の剥離作業が必要となり、シナリオA以上の費用(150万円〜)がかかる。「安物買いの銭失い」の典型例。トータルコストは200万円を超える。

見積書を「人工」で読み解く方法

質問1:「何人の職人が何日間入りますか?」

延べ人工数を確認する。見積もりの労務費(または総額から材料・足場代を引いた額)を人工数で割る。

1人工あたり15,000〜20,000円を大きく下回るなら、その現場は手抜きが確約されている。

質問2:「工程表を見せてください」

雨天予備日や、塗り重ね乾燥時間が十分に確保されているか確認する。

ぎちぎちに詰め込まれたスケジュールは危険信号。

質問3:「自社施工ですか?下請けに出しますか?」

中間マージンを排除し、支払ったお金をそのまま現場の人工に還元できる「自社施工」の業者を選ぶことが、コストパフォーマンスと品質を両立させる唯一の解。

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まとめ

「なぜ安い業者は手抜きになるのか?」

その答えは、「建設工事における品質は、投入された『人工(時間)』の総量に比例するから」。

安さは、必要な時間を削ることでしか生み出せない。そして、時間を削れば、物理法則に従って塗膜は破壊される。

これは情緒的な問題ではなく、構造的な必然である。

覚えておくべきポイント:

1. 人工(ニンク)=1人の職人が1日働くコスト

2. 材料費・足場代は削れない→削れるのは人工だけ

3. 多重下請け構造→中間マージンで現場予算が蒸発

4. 安さの正体=手間の省略=品質の欠落

5. 見積書は「総額」ではなく「人工」で読む

建設工事において、魔法のような安さは存在しない。存在するのは、適正な対価を払って適正な時間を買うか、安価な対価で欠陥を買うか、という二者択一の現実だけである。

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