「冬に塗装したら、1年で剥がれてきた」
「塗装直後なのに、触ると粉がつく」
「塗膜が白く濁っている」
これらは冬の塗装工事で起こる典型的な不具合だ。しかし、なぜ寒さが塗装の失敗を招くのか、そのメカニズムを理解している人は少ない。
この記事では、冬の外壁塗装で発生する不具合の「原因」と「見分け方」を解説する。契約前に業者の知識レベルを確認するためにも、施主自身がこれらのメカニズムを理解しておくことが重要だ。
なぜ寒さが塗装の品質を左右するのか
塗料は「半製品」である
塗料は、缶に入った液体状態では「完成品」ではない。塗装して乾燥・硬化するプロセスを経て、初めて「塗膜」という製品になる。
このプロセスには2つの現象が関わる:
- 物理的乾燥:溶剤(水やシンナー)が蒸発する
- 化学的硬化:樹脂が化学反応を起こして固まる
どちらも温度に強く依存する。気温が10℃下がると、化学反応の速度は約半分になると言われている。
冬場に起こる3つの異常
寒冷環境は塗料に対して、以下の異常を引き起こす:
- 凍結:水性塗料の水分が凍る
- 硬化不良:化学反応が進まない
- 成膜不良:塗膜が正常に形成されない
これらが組み合わさって、様々な不具合が発生する。
不具合1:粉化(初期チョーキング)
症状
塗装して数日〜数週間後に、塗膜を触ると白い粉が手につく。
通常のチョーキングは紫外線による経年劣化で起こるが、冬場の粉化は施工直後に発生する。これは塗膜が「形成されていない」ことを意味する。
原因:最低造膜温度(MFFT)未達
水性塗料には「最低造膜温度(MFFT)」という閾値がある。これは塗膜が正常に形成される最低温度だ。
正常な成膜プロセス:
- 水分が蒸発し、樹脂粒子が接近する
- 粒子同士が変形・融合する
- 連続した塗膜が形成される
低温での異常:
- 気温がMFFT以下だと、樹脂粒子が硬いまま変形しない
- 粒子同士が融合せず、「堆積しただけ」の状態になる
- 乾燥後、触ると粉状に崩れる
見分け方
- 塗装翌日〜1週間後に指で触れる
- 白っぽい粉が大量につく場合は粉化
- 下地まで容易に到達してしまう
これは塗膜として機能しておらず、全面やり直しが必要。
不具合2:白化(ブラッシング)
症状
塗膜が白く曇って見える。艶がない、または部分的に白っぽくなっている。
原因:結露による水分の取り込み
溶剤型塗料(ラッカー系、ウレタン系など)で特に発生しやすい。
メカニズム:
- 塗料中の溶剤が蒸発する際、気化熱を奪う
- 塗膜表面の温度が低下する
- 表面温度が露点以下になると、空気中の水分が結露する
- 結露した水分が塗膜内に取り込まれる
- 水分が微細な空隙を作り、光を乱反射させる
- 人間の目には白く濁って見える
発生しやすい条件
- 冬場の夕方以降の塗装
- 湿度が高い日
- 速乾性の塗料を使用した場合
- 日陰部分
見分け方
- 塗膜表面が白く曇っている
- 艶がない、またはムラがある
- 特に日陰部分や北面で顕著
不具合3:艶引け
症状
塗装したのに艶が出ない、または部分的に艶がない。
原因
艶引けには複数の原因がある。
原因1:夜露・霜の付着
- 塗膜が乾燥する前に夜露や霜が降りる
- 水滴が塗膜表面に微細なクレーターを作る
- 光沢が失われる
原因2:吸い込みムラ
- 低温で乾燥が遅れ、塗料が液状の時間が長くなる
- 多孔質の下地(木材、劣化コンクリート)に塗料が吸い込まれる
- 表面に残るべき樹脂分が不足し、艶が出ない
原因3:シンナー選定ミス
- 速乾シンナーを使いすぎると、レベリング(平滑化)の時間が不足
- 遅乾シンナーが残留すると、硬化阻害で艶引け
見分け方
- 部分的に艶がない(特に北面や日陰)
- 表面が均一でない
- 指で触ると若干ザラつく
不具合4:ちぢみ(リフティング)
症状
塗膜表面にしわができる。波打ったような、あるいは梅干しの皮のような模様が発生する。
原因
原因1:表面先行乾燥
- 塗膜表面のみが先に乾燥して皮膜を形成
- 内部の溶剤が揮発しようとする
- 固化した表面を押し上げ、しわ状に変形
原因2:下塗りの硬化不良(リフティング)
- 低温で下塗りが十分に硬化していない
- 上塗りの溶剤が下塗りを再溶解させる
- 下塗りが膨潤してしわ状になる
発生しやすい条件
- 厚塗りした場合
- 油性塗料(アルキド樹脂)
- 下塗りと上塗りの間隔が短い場合
- 低温で乾燥が遅い環境
見分け方
- 塗膜表面にしわや波模様がある
- 特に厚塗り部分で顕著
- 塗り重ねた境界部分で発生しやすい
不具合5:クラッキング(ひび割れ)
症状
塗膜に細かいひび割れが発生する。Y字型や三つ又状のパターンが多い。
原因:収縮応力の不均衡
メカニズム:
- 表面が先に乾燥・硬化する
- 内部はまだ流動性を保っている
- 表面が収縮しようとするが、内部が追従できない
- 表面層が脆性破壊を起こして割れる
特に水性塗料でMFFT付近の温度で施工した場合、粒子融着が不完全な領域に応力が集中し、クラッキングが発生しやすい。
見分け方
- 細かいひび割れが無数に発生
- Y字型や網目状のパターン
- 構造クラック(直線的な割れ)とは異なる
不具合6:凍害
症状
塗膜だけでなく、外壁材自体が破壊される。塗膜が外壁材ごと剥がれ落ちる。
原因:水分の凍結膨張
メカニズム:
- 外壁材(サイディング、コンクリート)の細孔に水分が浸入
- 夜間の気温低下で水が凍結
- 凍結時に体積が約9%膨張
- 膨張圧力が外壁材を内部から破壊
塗装が凍害を悪化させるケース:
- 高圧洗浄後、乾燥が不十分なまま塗装
- 透湿性の低い塗料で水分を閉じ込める
- 塗膜の下で水分が凍結し、塗膜ごと剥がれる
見分け方
- 塗膜だけでなく、外壁材の表面も一緒に剥がれている
- 表面がポロポロと崩れる
- 特に北面や日陰部分で発生
凍害は塗膜の問題ではなく、基材の破壊。補修には専門的な判断が必要。
不具合7:水性塗料の凍結破壊
症状
塗料自体が使用不能になる。または塗装後に「ブツ(粒)」が発生する。
原因:エマルション破壊
水性塗料は、樹脂粒子が水中に分散した状態(エマルション)だ。凍結するとこの分散状態が破壊される。
メカニズム:
- 水が氷の結晶になる
- 樹脂粒子や添加剤が濃縮される
- 粒子同士が不可逆的に凝集する
- 解凍しても元に戻らない
凍結した塗料の見分け方:
- カッテージチーズ状(おぼろ豆腐状)の塊がある
- 水と固形分が分離している
- 攪拌しても滑らかにならない
凍結した塗料は使用不可。無理に使うと塗膜に「ブツ」が発生する。
水性塗料と溶剤型塗料:冬場の比較
冬場の適性比較
水性塗料と溶剤型塗料の冬場での特性を比較する。
水性塗料:
- 凍結リスク:高い(0℃で凍結)
- 乾燥:湿度に左右される
- 成膜限界:MFFT以下で成膜しない
- 環境・臭気:低VOC、低臭
- ブラッシングリスク:低い
溶剤型塗料:
- 凍結リスク:低い(-50℃以下)
- 乾燥:低温でも蒸発しやすい
- 成膜限界:低温でも成膜しやすい
- 環境・臭気:高VOC、溶剤臭
- ブラッシングリスク:高い
結論
外気温が5℃を下回る場合、溶剤型塗料の方がリスクが低い。
ただし、環境配慮の観点から水性塗料を使用する場合は、以下の条件を厳守する必要がある:
- 気温5℃以上を確保
- 夜間に氷点下にならないことを確認
- 塗膜が乾燥するまで採暖(加温)する
人為的エラー:「早く終わらせたい」心理
冬場特有の心理的プレッシャー
冬は日照時間が短く、16時を過ぎると急速に暗くなる。職人は「明るいうちに、暖かいうちに終わらせたい」という心理的プレッシャーを受ける。
その結果起こるエラー:
- 追い掛け塗り:下塗りが乾く前に上塗り → 層間剥離、ちぢみ
- 残業塗装:日没後まで塗装を続ける → 夜露による艶引け、白化
- 過剰希釈:塗りやすくするためシンナーを足す → タレ、隠蔽不足、性能低下
見積書でのチェックポイント
冬場の工期が十分か確認する。
- 夏場と同じ工期なら要注意
- 1日の作業時間が短くなることを考慮しているか
- 乾燥時間を十分に確保しているか
業者に聞くべき質問
質問1:「水性塗料と溶剤型塗料、どちらを使いますか?理由は?」
- 良い反応:「冬場は気温が低いので、溶剤型(弱溶剤)を推奨します」
- 要注意な反応:「水性の方が環境に良いので水性です」(気温条件を考慮していない)
質問2:「最低造膜温度(MFFT)はご存知ですか?」
- 良い反応:「はい、水性塗料は○℃以下では成膜しないので、気温を確認して施工します」
- 要注意な反応:「?」(知らない場合は技術知識に不安)
質問3:「下塗りと上塗りの間隔はどのくらい取りますか?」
- 良い反応:「冬場は夏より長く、○時間〜翌日まで乾燥させます」
- 要注意な反応:「メーカー指定通りです」(冬場の乾燥遅延を考慮していない)
質問4:「ブラッシング(白化)対策はどうしますか?」
- 良い反応:「夕方以降は塗装しない、湿度が高い日は避ける、など対策しています」
- 要注意な反応:「?」(現象を知らない)
質問5:「塗料が凍結していないか、どう確認しますか?」
- 良い反応:「開缶時に状態を確認し、凝集や分離があれば使用しません」
- 要注意な反応:「凍結しないように保管しています」(確認方法を知らない)
まとめ
冬の外壁塗装で起こる不具合とその原因を整理する。
主な不具合と原因:
- 粉化:MFFT未達による成膜不良
- 白化(ブラッシング):結露による水分取り込み
- 艶引け:夜露・吸い込み・シンナー選定ミス
- ちぢみ:表面先行乾燥、下塗り硬化不良
- クラッキング:収縮応力の不均衡
- 凍害:水分の凍結膨張による基材破壊
- 塗料の凍結破壊:エマルション破壊
冬場の塗装で重要なポイント:
- 気温5℃以上を確保
- 水性塗料より溶剤型塗料がリスク低い
- 乾燥時間を十分に確保
- 夕方以降は塗装しない
- 下塗りと上塗りの間隔を延長
✓業者に確認すべきポイント
- 塗料の種類と選定理由
- MFFT(最低造膜温度)の理解
- 乾燥時間の設定
- ブラッシング対策
- 塗料の品質確認方法
見積書の内容が適正か不安な方へ
「冬に塗装を検討しているが、業者の技術力が不安」
「見積書を見ても、冬場の対策が書いていない」
「過去に冬の塗装で失敗した経験がある」
冬の外壁塗装は、科学的な知識と適切な管理が品質を決める。
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